気まぐれ鞘師と混乱するヲタクたち：BABYMETAL THE SUN ALSO RISES
「いま、かわむーにめっちゃ似てる子みた！」
開場時間が大幅に遅れてごった返す横浜アリーナの正面口で友人が興奮していった。
「かわむー」とはハロー！プロジェクト（ハロプロ）のアイドルグループ・アンジュルムの川村文乃さんのことだ。
「マジか！！」なんて返しながら、そんなはずはないと思っていた。
他のハロプロのコンサートならまだしも、ここはBABYMETALの現場なんだから。
2019年6月28日、横浜アリーナで行われたBABYMETALのライブにいった。
令和初、そしてYUI-METALが脱退し、新体制として銘打たれた初のライブなだけに、ファンの期待は高まっていた。
そんな期待に水をさすように、開場は遅れ、開演もずいぶん遅れていた。初日は開演が遅れることが多いBABYMETALだが、これほど押したことはなかったのではないだろうか。私は、一緒に来た友人と、その友人の勧めもあってハマったモーニング娘。の話をして開演を待っていた。
予定時刻を45分ほどすぎたころ、ライブは突然にはじまった。
BABYMETALのライブは、いつも怪しげで意味深なストーリーの映像から始まる。その内容をあれこれ推理しあうのもファンの楽しみの一つだが、たいてい答えはわからないままなかったことにされて、次のライブでは違うストーリーが展開される。つねに答えはOnly the FOX GOD knows(BABYMETALはメタルの神、キツネさまの啓示によって活動している) であって、深く考えてはいけないのだ。
派手な演出とともに、いよいよBABYMETALがステージに現れる。スタンド席でさきほどの友人とならんで、ステージに注目した。
SU-METAL、MOA-METAL、そして、仮面をかぶった三人がステージに現れる。
「YUI-METALの代わりに三人のアベンジャーズ（サポートメンバー）がやってきた。しかし、今日誰がサポートするかは、わからない。」
相変わらずじらしてくるなぁと思いながら、わくわくしていた私はチョロいヲタクだ。
派手な演出とともに、いよいよライブが開始。
YUI-METALがいたはずのその場所に、ハーフツインお団子の髪型の女の子が踊っている。
しかし、メインステージ上の彼女の、顔までは肉眼でわからない。会場の大きなビジョンには、わざとその子を映さないようにしているように、SU-METALとMOA-METALばかりを映している。
昨年の幕張でのライブも、サポートのダンサーをビジョンに映すのは避けていた。今回もその方針のようだ。
誰なのか気になりながらも、今日はSU-METALとMOA-METALと新曲を楽しもうと、その女の子からは意識をそらした。
見覚えがあると感じたのは、それまでビジョンにほとんど映らなかったサポートメンバーが、チラっと映ったときだ。
真っ黒なアイシャドウで顔はよくわからないものの、丸いながらもしっかりとしたアゴのライン、どこかで見なかったか？
そのとき、隣で友人がつぶやいた。
「ねえ、あの子、鞘師に似てない？」
そう、元モーニング娘。で、3年以上による沈黙破り、突如今年の3月のハロプロのライブイベントにゲスト出演という形で復活した、鞘師里保さんに似ているのだ。
そのライブには友人も私も行くことができず、配信された映像を何回も見返していた。
「うん、似てるね・・・あごのラインとか・・・」
「ダンスの動きも似てるよね・・・」
「似てるね・・・」
「体型も似てるよね・・・」
「うん・・・・」
まさか、と思った。
ちょっと他の二人よりもガタイのいい（全力で土下座したい）ダンサーの子だと自分にいい聞かせた。
しかし、アイシャドウが少しずつ汗で落ちていき、素顔があらわになっていけばいくほど、鞘師に似ている。
いや、やめているとはいえ、元ハロプロがBABYMETALに出るなんて・・・
ハロプロが・・・
ハロプロが・・・・
「いま、めっちゃかわむーに似てる子みた！」
！！！
かわむーーー！！
もしかして、友人がみた「かわむーにめっちゃ似てる女の子」はかわむー本人だったのでは？だとすれば、鞘師を見に来たのでは？
ここから、私のヲタク能はフル回転しはじめる。
- すぅちゃんと鞘師は同じASH出身。
- 鞘師は番組で一度MIKIKO先生と会って指導を受けている。
- 鞘師がモーニング娘。を卒業したのはダンスをやるため。
- ゆいちゃんがBABYMETALを脱退すると発表されたのは10月。
- 鞘師が所属事務所のアップフロントとの契約を終了したのは11月末。
- アミューズが鞘師にコンタクトし、承諾した鞘師がそのまま事務所やめることにしたのでは？！※私の妄想です
すべてがつながった・・・・！
（つなげただけ）
つじつまがあった・・・・！
（あわせただけ）
そこに、こちらもいよいよ確信を得た友人が叫ぶ。
「ああああ!今の振り！気まプリ（モーニング娘。の「気まぐれプリンセス」）の振りと一緒だ！！！！鞘師だあああ！」
ごめん！それはわからん！
しかし、お互い（勝手に）確信にいたった私たちは、興奮が抑えきれない。
「あれ、鞘師だ！」
「ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ！！これはヤバい！」
他にも鞘師に気づいたらしい同志が、遠くで「さやしーーーー！」と声援を送っていた。私たちだけに見える幻ではないらしい。
そこからはもう、BABYMETALのライブどころではなくなった。ただ、鞘師かもしれないハーフツインお団子の女の子を追い続けた。
BABYMETALのライブに行って、これほどすぅちゃんともあちゃんを見なかったことはない。新曲もほとんど頭に入らない。
生で見たかった鞘師が、BABYMETALのライブのステージに立っている意味がわからない。
信じられない気持ちと、うれしいのか何なのかよくわからない気持ちで、棒立ちのままライブを終えた。
終演後、周りの観客からも「あれ鞘師？」「鞘師って誰？」「鞘師じゃないでしょ」と、話し声が聞こえた。
しかし、公式からのアナウンスは何もなく、誰だったのか確証を得られないまま、私たちは帰宅した。
その夜、私たちは、報道でその女の子が本当に鞘師だったことを知る。
彼女はどんな思いで、BABYMETALのサポートにはいり、ステージに立ったのだろう。
モーニング娘。やハロヲタのなかには、他のグループに入ったことや（サポートだが）、「バックダンサー」として起用されたことに、悲しみをツイートしている人たちがいた。
でも、あのポジションはYUI-METALのいたところだし、BABYMETALの一部であって、バックダンサーではない。
そして何より、横浜アリーナに現れた鞘師は、笑って、力強く踊っていた。ダンスの道を志した彼女が、道重さゆみ卒業公演以来、約5年ぶりの横浜アリーナのステージで、楽しそうにパフォーマンスをしていた。
少なくとも、彼女にとって不本意なことではなく、うれしいことだったのだと思うから、ファンには今の彼女のパフォーマンスを楽しみにしていくことを、彼女は望んでいるように思う。
ちなみに、川村文乃さんは本当にBABYMETALのライブに来ていた。
ただ、ブログでは鞘師について何も触れてないので、鞘師に会いに行ったかどうかはわからない。
ヲタクとしては、BABYMETALメンバーとハロプロメンバーが楽屋で絡んでたらうれしいけど…（そして、その写真が欲しい）
ただ、なにより…人混みのなかで、かわむーをみつけた友人のアイドル嗅覚には驚きを隠せない。
